新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、世界各国の力関係も様変わりした。ウイルスの発生源・中国は、当初は爆発的な感染で危機的状況に陥ったが、国家権力を駆使した強権的なやり方で、短期間のうちに抑え込みに成功しつつある。一方で、自由主義国家であるアメリカとヨーロッパは、いまだ感染拡大が続いている。そこで引き起こされているのが、欧米と中国の分断だ。
アメリカのトランプ大統領が新型コロナウイルスを“中国ウイルス”発言するなど、発生源かつ社会主義国である中国に屈服したくないというプライドはあっても、結果的に自分たちはウイルスを抑え込めていない状況に苛立ちを隠せない。また、中国から物資支援を受けたオランダやスペイン、トルコなどの保健省は、「中国からの医療物資は品質が悪いので使用しない」と批判しているという。
これまで、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの資本主義諸国の発展を支えてきたのは、ウォルマート、アップル、グーグル、マイクロソフトなどの「グローバル企業」だ。世界中をネットワークでつなぎ、中国をはじめ人件費の安い新興国でモノをつくり、高く売れる先進国で販売する。そうして得られた利益を新興国にも還元することで世界が発展する──こうした「国―国」の連携が、資本主義の根幹だった。
しかし、これまでは自由に行き来できていたEU(欧州連合)諸国が分断され、アメリカでは州と州の往来も禁じられ、この連携が断たれつつある。グローバル企業によって保たれていた世界の需要と供給、国同士の力関係のバランスが崩壊しかねない。
アメリカの世界的ビジネス誌『フォーチュン』が毎年発表する世界のグローバル企業ランキング(2019年)の上位100企業では、1位のウォルマートをはじめとするアメリカ企業が35社ランクインしているのに次いで、中国企業は2位の中国石油化工集団を筆頭に22社がランクイン。世界のトップ企業の半分以上が、アメリカと中国なのだ。
欧米と中国が分断することによって、そのほかのグローバル企業が大きな影響を受けることは免れない。日本企業は10位にトヨタ自動車、33位に三菱商事と8社が名を連ねているが、今回のコロナ禍によって、トヨタは国内5工場での一定期間の稼働停止を決めた。
『「新型コロナ恐慌」後の世界』(徳間書店)の著者で作家・経済評論家の渡邉哲也さんが指摘する。
「昨年、アメリカと中国はハイテク分野で貿易戦争を繰り広げていましたが、今後はあらゆる分野で分断が進むでしょう。かつて東西冷戦下のヨーロッパの分断を表すのに“鉄のカーテンがひかれている”といいましたが、今後は中国を中心とした社会主義諸国に“竹のカーテンが下ろされる”といわれています」
つまり、アメリカをはじめとする資本主義諸国が中国とその仲間を“村八分”にするかもしれないのだ。
「今回の新型コロナ禍で“チャイナリスク”が表面化した。これまでは人件費が安く人手を確保できるなどの理由から依存していた“メイドインチャイナ”や“チャイナマネー”“中国人労働者”などに頼らないようにしよう、というのが、“コロナ後”の世界の大きな流れになるはずです」(渡邉さん・以下同)
いまや世界中で“鎖国”が進み、輸出入もできなくなっている。実際に、安倍晋三首相は「サプライチェーン(供給網)を日本に戻す」と発言している。すると、「国―国」の連携で成り立っていた世界の経済が、「国―その国の企業や個人」でやりくりしなければならない「ブロック経済」の状態になる。すでに、中国人観光客によってもたらされたインバウンドは崩壊し、各国内の中小企業や個人経営者のなかには、路頭に迷う人々が増えている。
信用調査会社の東京商工リサーチのまとめでは、日本国内で新型コロナウイルスの影響を受けた倒産は17件(4月3日時点・以下同)、法的手続き準備中は19件の計36件が経営破たんに向かっている。特に、外国人観光客を大きな収入源としていた旅館や飲食業などが多い。
さらに、具体的な生活への影響について、渡邉さんはこうみる。
「薬品の原料となる“原薬”は、安いジェネリック(後発医薬品)なら4割近くを中国に依存しているので、薬不足になる危険性がある。そして、100円ショップなどにあるような安い製品は多くが中国産のため、それらが店頭から消える。また、日本製のものでも中国の部品を使っているものは多数ある。これにより、日本の工場が止まることも予想されます」
そうなれば、物価の上昇やモノの不足に伴う経済の停滞もありえるだろう。そのほか、安い賃金で雇うことができていた中国人労働者がいなくなることによる倒産・失業の危険も出てくる。
事実、世界経済を牽引してきたアメリカでの失業保険申請件数は、3月28日までの2週間の間で約1000万件と過去最多となった。前週から倍増したうえ、2008年に起こったリーマン・ショック時の65万9000件の約15倍に上る、歴史的な水準だ。もはや1929年の世界恐慌並みの経済危機の様相となっているのだ。
女性セブン 2020年4月23日号